星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「こちらです、どうぞ」
 女性に誘導されて、詩季は歩き出す。
「待って」
 困惑したまま詩季に続き、待機場所に着いた絃斗はすぐに抗議した。

「なんで勝手に決めちゃうんですか? 僕は出たくないです」
「自信をとり戻すにはちょうどいいと思って」
「余計なお世話です」
 ぴしゃり、と言い切る彼にめんくらった。いつもやんわりとした言い方ばかりだったから。

 ステージでは女性が大音量の音楽に負けまいと必死に声を張り上げている。
 彼女はどういう気持ちで参加したのだろう。歌が好きだからなのか、優勝したいのか、頼まれて義理で出ているのか。

「なにを歌われますか?」
 係員が来てふたりにたずねる。
「僕は参加しません」
 係員は困惑を浮かべて詩季を見た。

「私が歌うから。……ひとりでもいいですよね?」
「ええ、もちろんです」
「エトワ・ド・シエルの『恋』でお願いします」
「はい」
 係員はホッとしたように答え、立ち去った。

 むすっと不貞腐れた絃斗を見て、内心でため息をつく。
 なにをやっても失敗だ。彼を元気づけるどころか、また傷付けたかもしれない。
 だったらせめて、ど素人の自分の歌を聞いて、あんなのでも人前に出るならと自信をもってくれたらな、と思った。
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