星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 ため息をついた絃斗に、あきれられている、と詩季は悲しく思う。
 だけどこれも自分のせいだ。
 大丈夫、どうせ誰も聞いてない。明日になったらみんな私のことなんて忘れる。

「グループ名は深ヶ谷姉妹(ふかがやしまい)、エトワ・ド・シエルの『恋』を歌います!」
 司会の声に、詩季は目を丸くした。
 ピンクのふたり組は上手な心地よいコーラスで、聴衆が引きつけられていた。

 このあとに歌うなんて。よりによって同じ曲を。
 そんなの、どうしたって比べられてしまう。
 詩季の顔からはすっかり血の気が引いていた。

 歌い終えて、大きな拍手をもらったふたりは上気した顔で戻って来た。
「緊張したあ!」
「私も」
 きゃっきゃと言い合いながら下がって行くのを、詩季はがたがたと震えて見送る。

「次は瑞垣詩季さん。エトワ・ド・シエルの『恋』を歌います!」
 司会の紹介に、詩季の足は動かない。
 場がざわつき、司会がそでにいる詩季を見る。

 行かなくちゃ。自分が行くって言ったんだから。彼のために、そう決めたんだから。
 詩季は震える足を踏みだした。

 ステージに上がると、景色は一変し、視界いっぱいに観客席が広がる。
 さきほどまで無関心にそっぽを向いていた観客に値踏みするように見られ、緊張がさらに大きな波となる。

 いまや立っているのがやっとだ。司会から受け取ったマイクを持つ手が震え、暑くもないのに汗がにじむ。聞こえるのは心臓の音だけ。目が回りそうで、なにもしていないのに呼吸が荒くなる。
 容赦なく音楽が鳴り始めたそのとき。
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