星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 手を重ねると、彼にひかれてステージを降りた。その間、拍手はずっと鳴りやまなかった。
「良かったです、無事に終われて」
「ありがとう。ハープ、最高だった」
 詩季はそれ以外、言葉が出なかった。
 ハープをケースにしまった絃斗は肩を震わせる詩季に驚いた。

「大丈夫ですか?」
「なんかほっとして」
 やりきった達成感とステージに立った高揚感。さらには緊張からの開放もあったのだろう。だがそれ以上に言葉にならないなにかが涙となってこぼれ、止められなかった。

 うつむく詩季を、ふわっとなにかが包んだ。
 絃斗の腕に包まれたのだと気付いて、詩季の心臓は駆けあがるグリッサンドのように高鳴った。

「すごかったです。僕、感動しました」
 絃斗は抱きしめる手に力を込める。詩季はそのまま頭をもたせかけた。
 大きくて温かな胸。腕は思ったよりも力強くて、男らしかった。

 絃斗のゆったりとした息遣いが、すぐそばにある。
 その背に腕を伸ばしていいものかわからず、詩季は目を閉じた。
 彼の初恋の人が頭をよぎったが、今は、今だけは許してほしいと祈った。

 彼はしばらくの抱擁ののち、そうっと手を離した。
 彼が涙のあとを拭ってくれて、詩季はまたうつむいてしまう。

「自分でできるから」
「ごめんなさい」
 照れたように彼はそっぽを向いた。
 バッグからティッシュを出してふいていると、ふたりをカラオケ大会に誘った女性係員が興奮気味に近寄って来た。
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