星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「これ……」
「あ、な、なんで!? 見ないで!」
 絃斗は慌ててポスターに覆い被さるが、隠しきれていない。
 そこには絃斗が黒い服を着てハープを弾く姿があった。

「満星絃斗、全国ツアー開催! って……すごい人だったのね。来週スタートじゃない」
 うつむく彼に、それ以上は言えなかった。
 彼は評論家に酷評されて傷付いたのだ。なぜ隠していたのかを追求するとまた傷付けるかもしれない。
 絃斗はなにかを探すように視線を彷徨わせ、それからぽつりと言った。

「……服、ほしいな」
 首をかしげる詩季に、彼はにっこりと笑う。
「汗をかいたので着替えたいです。選んでくれますか?」
「もちろん」
 ふたりはカラオケ大会の運営者に見つからないように気を付けて駅ビルに戻り、メンズのショップに向かう。
 いくつか店を回り、濃いグレーのテーラードのカーディガンにノーカラーの白シャツ、黒いテーパードパンツを薦めた。

「襟がジャケットみたいになってるカーディガン、初めてです。シンプルなのに大人っぽくて。ノーカラーシャツも初めてです」
 絃斗は目をきらきらさせ、そでをひっぱったり裾をつまんだり、何度も鏡で確認する。

 詩季はほっとしてその姿を見ていた。無難にまとめた気がするが、喜んでくれている。新しい服でこんなに笑顔になっている人を見るのは久しぶりだった。

 着ていきます、と店員に言ってタグを切ってもらう。
 うきうきしている彼と一緒にビルを出ると、もう日が暮れていた。
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