星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「僕、ずっとここにいたいな……」
「え?」

「あ、変な意味じゃないです、その、楽しかったから。食後はお礼にコーヒー淹れますね」
 顔を赤くしてうつむく彼を見て、詩季の胸に苦いものが広がる。
 彼は本当にただ思ったことを言っただけで、他意はないに違いない。



 食後、彼の淹れてくれた食後のコーヒーを飲んでいるときだった。
「うああああ!」
 彼の驚きの声が響く。

 詩季は一瞬、なにが起きたのかわからなかった。カップが倒れ、茶色の液体が広がっている。
「ごめん、手が滑ってこぼしちゃった」

 詩季はすぐにタオルを持ってきて彼にかかったコーヒーを叩くように拭いた。
「やけどは?」
「熱くなかったから大丈夫。でも服が……せっかく選んでもらったのに、ごめんなさい」

「それよりやけどしなくてよかった」
 言ってから、はたと気が付く。こんなに接近して、まるで恋人みたいだ。
「ごめん、自分で拭いて。叩くようにして拭くんだよ」

 テーブルにこぼれたコーヒーはキッチンペーパーでふきとった。
 服が塗れたままだと気持ち悪いだろうし、すぐに洗わないと染みになってしまう。
 彼とは会ったばかりだから、シャワーを勧めていいものかどうか、ためわられた。
 詩季はたっぷりとコーヒーを吸ったペーパーを捨て、結局、切り出した。

「シャワー浴びる? そのままじゃ気持ち悪いでしょ?」
「だけど……」
「覗いたりしないから」
 詩季がおどけると、絃斗はぷっと笑った。
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