星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「じゃあ、遠慮なくお借りします」
「その間に服を洗うね」
 まだ八時だから、洗濯機をまわすにはギリギリ間に合う。

「じ、自分でしますっ」
「洗濯表示、わかる?」
「洗濯表示?」
 首を傾げる彼に詩季は苦笑する。

「ほら、わからないじゃない」
「し、下着は、その」
「遠慮しなくていいわよ」

 どうせ二度と会わないのだから。
 続く言葉は、言わなかった。
 わかりきっていることを言葉にして自分を追い詰める必要もない。

「新しいの買ってあるから、大丈夫です」
「いつの間に」

「昼間、買ってトイレで着替えたんです。残りがまだあります。でも服はお願いしてもいいですか」
「いいわよ」
 詩季がうけ合うと、彼は恥ずかしそうに身を縮めた。そんな姿はツアーを行うほどの音楽家には見えない。

 クローゼットを漁って、彼が着れそうなものを持ってきた。
「着替えのスエット。これならゆったり目だから」
 以前、自分の部屋着用に買ってもう着なくなっていたものだった。
 脱衣所はないから、彼は浴室で服を脱いで彼女に服を渡した。
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