星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 白いシャツには幸いにもコーヒーがかかっていなかった。
 詩季はカーディガンの洗濯表示を確認して酸素系漂白剤をぬり、ネットに入れてから洗濯機を回す。
 彼がシャワーを浴びている間に、詩季はスマホで満星絃斗を検索した。

『若き天才ハーピスト、コンクール総なめ!』
『ハープ界の綺羅星、クラシック界を席巻!』
 現れた画像はどれも彼でしかなくて、だけど黒いかしこまった衣装で堂々としている様子はまったく見慣れない。

 彼は著名なピアニストの息子で幼い頃から頭角を現していたという。中学卒業後はオーストリアのウィーンに音楽留学に行き、有名な音楽大学を主席で卒業して世界で活躍していると書かれている。若い頃から音楽界では有名だったらしいが、音楽に興味のない詩季はまったく知らなかった。
 所属する音楽事務所は世界に名をとどろかせているところで、連絡先として電話番号とメアドが載っていた。

 今日見たポスターの全国ツアーは、来月にはこの市でも開催予定になっている。
 コンサートって、すごいお金がかかるのでは。ドタキャンなんてしたら返金に加えて損害賠償とか。

『やっと出た! どこにいるんですか!』
 脳裏に、カラオケ店で聞こえた誰かの声が響く。
 あれはマネージャーが彼を探しているのだろうか。彼が逃げ出したのは、コンサートから?

 どきどきして浴室のあるほうを見ると、壁の向こうからは水の音だけが聞こえてくる。
 詩季はスマホを手に取り、電話をかけた。



 洗濯が終わるより早くスエットを着た絃斗が出て来た。
「ごめんなさい、すっかりお世話になってしまって」
「いいよ、大丈夫」
 恐縮する絃斗に、詩季はぎこちなく微笑した。
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