星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「ごはんは私が作るから、何もしないでね」
「僕が作るとなんでも焦がしますもんね」
 苦笑する絃斗に、詩季も苦笑した。
 


 ベッドに入った詩季は、寝付けずにごろごろしていた。
 絃斗が扉の向こうにいる。
 そう思うと、胸がどきどきして止められない。

 今日——正確には昨日の夜だが——出会ったばかりの男性だ。
 なのに。

 恋ってこんなに早く落ちるものだったっけ。

 詩季は布団をかぶる。
 童顔で、気弱そうな見た目や言動のせいもあって、まったく年上には思えない。だけど優しい手が奏でる音楽は心を星のように輝かせてくれる。

 彼のやわらかな微笑み、透き通った声。服を選んだら喜んでくれたこと、一緒にハープを弾いたこと、一緒にステージに立ったこと、手を引かれて走ったこと。——抱きしめられたこと。

 頭の中をぐるぐると記憶が駆け巡った。
 明日にはもう、彼は去る。
 そうして、二度と会うことはないだろう。
 彼は手の届かない、星のような人だ。

 耐えられなくなって、半身を起こす。
 暗い部屋の中、ぼんやりと四角の扉を見つめていると、やはりじっとしていられなくなって扉の前に立った。
 この向こうに、絃斗がいる。

 もう眠っているだろうか。
 毛布だけで寒くないだろうか。
 ……彼は、自分をどう思っているだろうか。

 ドアのレバーに手をかける。
 が、動かすことはできなかった。
 扉を開けて、どうするというのか。
 ぐっと唇を噛んで、ドアに背を向ける。

 彼には恋人がいる。毎日会っているという初恋の人が。
 ベッドに横になると、布団を頭までかぶって目をつぶった。
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