星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 通りがかった女性がふらっと立ち寄り、あれこれ見てから、一着を手に取って詩季に声をかけ、試着室に入った。
 出て来た彼女はその服を持ってレジに来る。

「私ね、ここの服が好きだったの」
 女性はレジを担当した詩季に上気した顔でそう言った。
「ありがとうございます」
 詩季は笑顔で答えた。が、胸には苦いものがあった。好きだった。過去形だ。現在進行形だったらどんなにいいだろう。

「でも、どんどん若い子向けになって買えなくなってたの。そうじゃなくて私が歳を取ったんだって、気付いたときにはショックだった」
 詩季はとっさになにも言えなかった。自分も同じだ。置いていかれたと思っていたのが間違いで、変化についていけなかっただけだったのだろう。

「でもね、今日またここの服が買えて、嬉しくなったわ。最近落ち込むことばかりだったけど、元気が出たの。ありがとう」
 思いがけない言葉に目頭が熱くなった。
「こちらこそ、ありがとうございます」

 女性は笑顔で店を出て行き、詩季は深々と頭を下げた。
 光る粒が床に落ちて、詩季は目を拭った。



 絃斗の買ってくれたコーヒーセットは届いたらすぐに開封し、器具を洗ってコーヒーを淹れる。
 香りは華やかで、甘く、フルーティーな味わいだった。
「考えて見ればコーヒーも果実なんだよね」
 アカネ科のコーヒーノキに属している植物で、その果実の中の種を加工して作られたものがコーヒーだ。
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