星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「あの人が淹れたら、もっとおいしいんだろうな」
 絃斗を思い浮かべ、目を細めた。

 今頃はコンサートの準備で忙しくしているだろうか。
 困った顔でハープを抱えているだろうか。
 むりやり彼の世界に返した自分を恨んでいるだろうか。

 コーヒーを口にすると、絃斗のはにかんが笑顔が浮かぶ。
 きっと、楽しく弾いている。
 だってあのとき……一緒に舞台に立ったとき、彼は笑顔だったから。

 甘やかな苦みが広がり、ゆっくりと息をついた。
 好きな場所、居心地のいい場所から新しい知らない世界に挑戦するのは勇気がいる。
 だけど、今ならできる気がする。

 人前で歌うなんていうことにチャレンジできたのだから。
 彼が、飛び込む勇気をくれたのだから。
 彼と歌ったあの数分間は、なにごとにも代えがたくきらきらと輝いていた。



 本部から視察が来たのは、それから一週間後だった。
 部長と、元カレでバイヤーの及川は予定通りの時間に現れ、店を見て回った。
「提案は電話でも聞いたけど……もう一度聞かせてもらえる?」
 部長に言われ、詩季は緊張でどきどきしながら話した。

「当店は売り上げが低迷していました。この駅ビルができた当時は近くのベッドダウンにたくさんの人が入居し、若者もあふれていました。ですが、当時の若者はもうこの街を出て、少子化のせいもあって若者が減っています。ターゲット層の絶対数が少ないですから売上は伸びません。なによりお客様に満足していただけるように、若者も大人も喜ぶ服を置きたいんです」
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