星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 上の年齢に向けた店舗は別ラインで存在している。ターゲットがあいまいになれば客足が落ちるのが普通だ。年齢で体型も変わるから、似合うかどうかの個人差は大きくなる。最近の売上は少し上向いたが、伸び続ける保証はない。それでも。

「この場所だからこそ、こちらのお客様に合った服を提供したいと思っています」
「どう思う?」
「俺は悪くないと思いますけどね」
 部長の問いに、及川が答える。

「うちのラインでそろえて、若すぎず渋過ぎない。加えて最近の売上が増えています」
「そうなんだよな」
 部長は思案顔で店内を見て、通路を行き交う人を見た。

「その方向でやってみるか」
「ありがとうございます!」
 詩季はがばっと頭を下げた。

「実際、その通りなんだよな。君が来てから売上が下がらなくなったから、見落とされていたな」
 下がらなくなった、とは。
 言い方にひっかかり、詩季は顔を上げて部長を見た。

「ずっと売上を上げられなくて……」
「下げ止まらせることができたんだ、君が優秀な証拠だ」
 及川の笑みに、詩季の胸がどきどきと高鳴った。

「異動先でも期待しているよ」
 部長がにこやかに言う。
「がんばります!」
 マネキンに目をやると、つんと澄ましている姿が、どこか誇らしげに見えた。
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