危険すぎる恋に、落ちてしまいました。番外編
夕暮れの校舎は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。
美羽は昇降口で靴を履き替えながら、スマホを取り出す。
「……よし」
指先でメッセージを打つ。
――椿くん、風邪大丈夫?今から家いくね!
送信して、数秒。
すぐに返事が返ってきた。
――は?来なくていい。ってかなんで風邪って知ってんだよ
「え!?冷たくない!?」
思わず声が漏れる。
画面を睨んでいると、またすぐに通知が鳴った。
――あー、悠真か。
――悪ぃ、とにかく美羽に移すといけねぇから。
その文面に、美羽は一瞬きょとんとしてから、ふっと笑った。
「……なにそれ。優しすぎでしょ!」
胸の奥が、じんわり温かくなる。
「でもさぁ……」
画面を見つめたまま、いたずらっぽく唇を曲げる。
「来るなって言われたら、行きたくなるよね?」
そう呟いて、スマホをバッグにしまった。
*
鈴に住所を教えてもらい、辿り着いた椿の家を見上げて、美羽は思わず立ち止まった。
「……でっか……」
美羽の家より倍はあるであろう大きな家に、
広い庭、落ち着いた色合いの外壁。
(え、椿くんって……こんなお金持ちだったの……!?恐るべし北条家!)
目をぱちぱちさせていると、玄関が静かに開いた。
「美羽ちゃーん!」
小声で手を振る鈴の姿に、ほっとする。
「来てくれてありがとう!お兄ちゃん、全然言うこと聞かなくてさ~」
「久しぶり、鈴ちゃん。勝手に来ちゃってごめんね」
「ううん!お兄ちゃんああ見えて絶対うれしいと思うよ!ほら、入って入って!」
そっと招き入れられ、静かな玄関に足を踏み入れる。
中は想像以上に整っていて、落ち着いた空気が漂っていた。
「そういえば……ご両親に挨拶したほうが……?」
「今日は仕事でいないから大丈夫!夜には"慧くん"が帰ってくるし!」
「けいくん……?」
「あ、一番上のお兄ちゃん!お医者さんなの!」
「あ、そっか……椿くん前にそんなこと言ってた!」
「ふふ、慧くんはね、お医者さんだし、頼りになって、それでもって、とってもかっこ良くて優しいの!」
「へぇ…そうなんだ…(まぁ、イケメンの椿くんと可愛い鈴ちゃんの兄だもんね…遺伝子が恐ろしいな…)」
美羽は、少し想像しながら苦笑いしていた。
「そっか!お兄さんが見にきてくれるなら、安心だね…!」
少し安心しながら階段を上る。
その途中で、鈴のスマホが鳴った。
「あ、ごめん!慧くんから電話だ!
お兄ちゃんの部屋、一番奥だから!美羽ちゃん先に入ってて~。あと、飲み物とかも用意してくるね!」
「え、え!?ちょっと鈴ちゃん……!」
返事をする間もなく、鈴は階段を下りていった。
(ひとりで入るの……!?)
深呼吸をして、そっとドアの前に立つ。
小さくノックしてから、控えめに声をかけた。
「……椿くん?入るよ?」
ゆっくりドアを開けると、シンプルな色合いの部屋が広がっていた。
紺と黒で統一された、無駄のない空間。
そして――
ベッドの上で、眉間に皺を寄せ、汗を浮かべて眠る椿。
「……っ」
思わず息を呑む。
「椿くん……?」
そっと近づくと、かすかに目が開いた。
「……美、羽……?」
「大丈夫!?熱高いんじゃ……」
「……来んなって……言っただろ……」
掠れた声が、やけに弱々しい。
「ごめん。でも……どうしても心配だったの。」
そう言いながら、起き上がろうとする身体を慌てて支える。
「椿くん!無理しないで、寝てていいよ!」
「……水……」
テーブルに置かれたペットボトルを取り、口元へ運ぶ。
「はい、ゆっくりね。」
「……さんきゅ。」
ごく、ごく、と喉を鳴らす姿を見つめながら、美羽の胸がどきりと跳ねた。
(……椿くんの、スウェット姿はじめてみた……)
いつもの制服とも、喧嘩のときの険しい顔とも違う。
少し無防備で、熱に浮かされた表情。
(……ずるい……)
そんなふうに思ってしまう自分に、また顔が熱くなる。
(もう、莉子があんな事いうからー!!)
「……なに赤くなってんだよ。」
「へ!?なってないよ!?」
「嘘つけ……」
小さく笑った椿の声は、どこか安心したみたいで。
その瞬間、美羽は思った。
――来てよかった、と。
静かな部屋に、夕暮れの光が差し込む。
風邪で弱った彼と、そばにいる彼女。
そんな、
少しだけ特別で、甘くて、胸がきゅっとする――
お見舞いの時間が、ゆっくり始まろうとしていた。
美羽は昇降口で靴を履き替えながら、スマホを取り出す。
「……よし」
指先でメッセージを打つ。
――椿くん、風邪大丈夫?今から家いくね!
送信して、数秒。
すぐに返事が返ってきた。
――は?来なくていい。ってかなんで風邪って知ってんだよ
「え!?冷たくない!?」
思わず声が漏れる。
画面を睨んでいると、またすぐに通知が鳴った。
――あー、悠真か。
――悪ぃ、とにかく美羽に移すといけねぇから。
その文面に、美羽は一瞬きょとんとしてから、ふっと笑った。
「……なにそれ。優しすぎでしょ!」
胸の奥が、じんわり温かくなる。
「でもさぁ……」
画面を見つめたまま、いたずらっぽく唇を曲げる。
「来るなって言われたら、行きたくなるよね?」
そう呟いて、スマホをバッグにしまった。
*
鈴に住所を教えてもらい、辿り着いた椿の家を見上げて、美羽は思わず立ち止まった。
「……でっか……」
美羽の家より倍はあるであろう大きな家に、
広い庭、落ち着いた色合いの外壁。
(え、椿くんって……こんなお金持ちだったの……!?恐るべし北条家!)
目をぱちぱちさせていると、玄関が静かに開いた。
「美羽ちゃーん!」
小声で手を振る鈴の姿に、ほっとする。
「来てくれてありがとう!お兄ちゃん、全然言うこと聞かなくてさ~」
「久しぶり、鈴ちゃん。勝手に来ちゃってごめんね」
「ううん!お兄ちゃんああ見えて絶対うれしいと思うよ!ほら、入って入って!」
そっと招き入れられ、静かな玄関に足を踏み入れる。
中は想像以上に整っていて、落ち着いた空気が漂っていた。
「そういえば……ご両親に挨拶したほうが……?」
「今日は仕事でいないから大丈夫!夜には"慧くん"が帰ってくるし!」
「けいくん……?」
「あ、一番上のお兄ちゃん!お医者さんなの!」
「あ、そっか……椿くん前にそんなこと言ってた!」
「ふふ、慧くんはね、お医者さんだし、頼りになって、それでもって、とってもかっこ良くて優しいの!」
「へぇ…そうなんだ…(まぁ、イケメンの椿くんと可愛い鈴ちゃんの兄だもんね…遺伝子が恐ろしいな…)」
美羽は、少し想像しながら苦笑いしていた。
「そっか!お兄さんが見にきてくれるなら、安心だね…!」
少し安心しながら階段を上る。
その途中で、鈴のスマホが鳴った。
「あ、ごめん!慧くんから電話だ!
お兄ちゃんの部屋、一番奥だから!美羽ちゃん先に入ってて~。あと、飲み物とかも用意してくるね!」
「え、え!?ちょっと鈴ちゃん……!」
返事をする間もなく、鈴は階段を下りていった。
(ひとりで入るの……!?)
深呼吸をして、そっとドアの前に立つ。
小さくノックしてから、控えめに声をかけた。
「……椿くん?入るよ?」
ゆっくりドアを開けると、シンプルな色合いの部屋が広がっていた。
紺と黒で統一された、無駄のない空間。
そして――
ベッドの上で、眉間に皺を寄せ、汗を浮かべて眠る椿。
「……っ」
思わず息を呑む。
「椿くん……?」
そっと近づくと、かすかに目が開いた。
「……美、羽……?」
「大丈夫!?熱高いんじゃ……」
「……来んなって……言っただろ……」
掠れた声が、やけに弱々しい。
「ごめん。でも……どうしても心配だったの。」
そう言いながら、起き上がろうとする身体を慌てて支える。
「椿くん!無理しないで、寝てていいよ!」
「……水……」
テーブルに置かれたペットボトルを取り、口元へ運ぶ。
「はい、ゆっくりね。」
「……さんきゅ。」
ごく、ごく、と喉を鳴らす姿を見つめながら、美羽の胸がどきりと跳ねた。
(……椿くんの、スウェット姿はじめてみた……)
いつもの制服とも、喧嘩のときの険しい顔とも違う。
少し無防備で、熱に浮かされた表情。
(……ずるい……)
そんなふうに思ってしまう自分に、また顔が熱くなる。
(もう、莉子があんな事いうからー!!)
「……なに赤くなってんだよ。」
「へ!?なってないよ!?」
「嘘つけ……」
小さく笑った椿の声は、どこか安心したみたいで。
その瞬間、美羽は思った。
――来てよかった、と。
静かな部屋に、夕暮れの光が差し込む。
風邪で弱った彼と、そばにいる彼女。
そんな、
少しだけ特別で、甘くて、胸がきゅっとする――
お見舞いの時間が、ゆっくり始まろうとしていた。