月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その笑みの下になにが潜んでいるのか、誰よりも知っている。
 ルーベンの視線がレオナールに向けられた。

 「久しいな、弟よ。谷の守りはどうだ」
 「おかげさまで平穏です、陛下」

 老いた声でそう応えるレオナールの横顔には、一分の曇りもなかった。
 だが、ルーベンの目にはかすかに影がよぎり、彼を見下ろしながら唇を歪める。

 「そうか……。だが、谷の風は冷たかろう。あの地で老いた身に耐えるのは骨が折れるだろう?」

 嘲りとも憐れみともつかぬ響きがある。
 しかしレオナールは穏やかに微笑み、静かに言った。

 「冷たい風も、守るべきものを思えば温かいものです」

 ルーベンが唇の端をわずかに吊り上げる。

 「……相変わらず、言葉の綾だけは見事だな、弟よ」

 ルーベンは視線をゆっくりとエミリアへ移した。

 「そしてお前も、変わらぬな。追放されてもなお、その瞳は誇りを失っていないようだ」

 その声音には賞賛とも、皮肉ともつかぬ響きが混じる。

 「陛下のお言葉、ありがたく頂戴いたします」
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