月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 表向きは平穏な会話だった。しかし、その裏になにかが潜んでいるのを肌で感じる。その気配をシルバも感じるのだろう。胸元で小さな唸り声をあげている。
 エミリアは唇を結び、深く礼をしてからレオナールとともにその場を辞した。
 宮殿の回廊を歩くうちに、懐かしい香りや音が次々と蘇る。
 でもどれも、今の自分には遠い。
 老いた背中を静かに支えるように寄り添いながら、エミリアは思う。

 (この場所は光に満ちているのに、息が苦しいわ)

 ふと横を見ると、レオナールは目を伏せていた。その横顔には疲労の影のほかに、なにかを耐えるような強さがある。
 エミリアはそっと彼の手に触れた。すると弱い力ながらも、その手が握り返してくる。
 それを見ていた侍従のひとりが、無表情のまま部屋の扉を開けた。
 案内されたのは、宮殿の西翼にある客間だった。
 重厚な扉が閉じられると同時に外のざわめきが遠のく。代わりに聞こえるのは静かな時計の針の音と、薄いカーテン越しに揺れる風の気配だけ。

 「ひどい……!」

 最初に声を上げたのはカーリンだった。怒りに頬を紅潮させながら、ぎゅっと拳を握りしめる。

 「王と王妃があんなふうに人を見下すなんて……! 殿下とエミリア様がどれほど立派な方なのか、まるで知らないくせに!」
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