月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
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 重い扉が閉まると同時に、謁見の間の空気が変わった。王座の前に残されたのは、ルーベンとバネッサ、そして控えていた侍従数名だけ。
 ルーベンは侍従たちをその場に置き、忌々しい思いを抱えながら自室に向かった。

 「……ふん。思ったよりも、くたばってはいなかったな」

 ルーベンが低く吐き捨てるように言う。苛立ちと焦りを隠せない。
 バネッサは扇をあおぎながら、薄く笑んだ。

 「老いさらばえて惨めな姿を見せると思っていたのにね。あの眼……まだ燃えていたわ」
 「まったくだ。あの呪いを受けて十年、まともに立っていられるはずがない。……だが、あれはまるで――」
 「〝まだ終わっていない〟と言いたげでしたわね」

 バネッサの声には甘い毒があった。
 自室のソファに深く腰を下ろし、肘掛けを握りしめる。

 「いずれにせよ、祝宴で白日のもとに晒せばよい。誰もが見るだろう。呪われた王子と、追放妃の哀れな姿をな」

 言葉とは裏腹に、その瞳にはほんの一瞬、かすかな迷いがよぎる。
 それを見逃さず、バネッサは唇を歪めて笑った。

 「怖いの? あなたの完璧な王座が揺らぐのが」
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