月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 それはこの国の王家に連なる者だけが身に纏うことを許された紋章。しかし彼はそれを誇示することなく、まるでただの布切れのように自然に着こなしていた。
 髪は銀の糸のように流れ、わずかに風を受けて光を返す。目元には静かな光が宿り、その瞳の奥に深い知恵と哀しみがあった。
 エミリアは思わず息を呑む。まるで夜に生まれた精霊のようだった。
 静かで凛としていて、どんな嘲りも触れられない気高さがある。
 レオナールはそんな彼女の視線に気づいたのか、微かに微笑む。

 「そんなに見つめられては、祝宴に間に合わなくなる」
 「だって、あまりにお美しくて……」

 その言葉に、レオナールは少しだけ肩を竦めた。

 「夜が味方をしてくれているだけだ」

 冗談めかして笑う。

 (この美しい姿を、昼の陽の下では誰も知らないなんて……)

 つい時間も忘れて彼と見つめ合っていると、カーリンが咳ばらいをして声をひそめる。

 「それで……おふたりが休まれている間に、少しだけ宮殿の中を歩いてきたんですけど。……あっ、なにもしていませんから怒らないでくださいね」
 「もう、カーリンったら」
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