月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その所作には昼間と変わらぬ気品があり、しかし、そこに漂う気配はべつのもの。威厳と静謐がひとつに溶けた、夜の王のような存在感だ。

 「真の姿で顔を合わせるのは久しぶりですね、兄上」

 よく通る声が広間を満たした瞬間、ざわめきが爆ぜた。

 「殿下……?」
 「あの方が、呪われた第二王子……?」
 「そんなはずが……昼間はあんなにも老いて――」

 誰もが口々に驚きを漏らす。
 ルーベンの顔から血の気が引いていくのがわかった。そしてついにルーベンが声を絞り出す。

 「レオナール……なのか」

 その名が広間中に響いた。まるで呪文のように空気を震わせる。
 青年――レオナールは、静かに顔を上げる。月光のような瞳が、王を真っすぐに見据えていた。

 「はい。昼には老い、夜には元の姿に」

 言葉は穏やかだが、凛とした力が宿っている。

 「そ、そんなはずは……!」

 ルーベンの喉が音を立てる。
 王妃バネッサが隣で扇を持つ手を止め、硬直していた。

 「そんなはず、とはどういうことですか?」
< 119 / 224 >

この作品をシェア

pagetop