月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 ひそやかな賞賛が波のように広がっていく。人々の目は、意志を持ってレオナールを追いかけているかのようだった。
 レオナールは一つひとつの挨拶に穏やかに微笑み、礼を返していた。
 光に包まれたルーベンの王座よりもレオナールの立つ闇の側の方が、人々の目には輝いて見えるのだろう。
 エミリアはその様子を隣に寄り添い見つめていた。
 彼が笑うたびに貴族たちの表情が和らぎ、息を呑むのがわかる。誰もが彼を忘れてはいなかった。
 呪いも追放も、時間さえも、彼の中の誇りは奪えなかったのだ。
 ルーベンにとっては、なによりも残酷な事実だろう。
 視線を感じてふと振り返ると、王妃バネッサがこちらを見ていた。
 薄く微笑んでいるが、その瞳の奥ではべつの色が燃えている。
 嫉妬だ。それは氷のように冷たい炎だった。
 彼女の扇がゆるやかに動くたび、香が漂う。だがその香りの奥に苛立ちと焦燥が微かに混じっているのを、エミリアははっきりと感じ取った。

 (……あなたも気づいているのね。誰がこの場を支配しているのか)

 王妃の笑みが、わずかに強張る。その隣でルーベンは杯を掲げているが、その手が小さく震えているのをエミリアは見逃さなかった。
 祝宴の中心にあるべき王と王妃。だが、光の輪はゆっくりと彼らから遠ざかっていく。
 今、その中心にあるのは夜を纏うひとりの王子と、その隣に立つ、かつて追放された妃だ。
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