月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 音楽が高鳴り、人々の声が重なっていく中、大ホールの扉が、突如として大きな音を立てて開かれた。
 ざわめきが止む。直後に息を切らした近衛兵が駆け込んできた。

 「し、失礼いたします! 報告申し上げます!」

 兵は床に膝をつき、顔を上げた。

 「宮殿の東の庭園に魔獣が出現! 周辺に避難の指示を!」

 大広間が一瞬で凍りついた。ざわめきが悲鳴へと変わり、貴族たちは後ずさる。

 「ま、魔獣が……宮殿に!?」
 「結界はどうなっているのだ!」
 「神殿の加護は――」

 誰もが顔を見合わせ、声を失っていく。
 王座で、ルーベンの顔が見る間に蒼白に変わっていく。

 「馬鹿な……この王都の結界が再び破られたというのか!」

 握った杯が震え、赤い葡萄酒が滴り落ちて手を染める。
 隣でバネッサは扇を固く握りしめたまま、唇を震わせていた。
 そのとき、静かに身じろぎしたのは、レオナールだった。わずかに姿勢を正しただけで、広間の空気が変わる。闇を纏うようなその佇まいを、誰もが凝視した。
< 122 / 224 >

この作品をシェア

pagetop