月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「門の結界が破られたというのなら、残りは長くもつまい」

 低く響く声が、場のざわめきを一瞬で鎮めた。
 人々の視線が一斉に彼へ向かう。
 黒を基調とした上衣の裾が揺れ、銀糸の刺繍が燭光に閃く。彼の瞳には、夜の底のような静けさと炎のような決意が宿っていた。

 「ど、どこへ行くつもりだ、レオナール!」

 ルーベンが声を荒げる。

 「この場を離れるな! それは王の命令だ!」

 レオナールはその言葉を背に受け、ただ一度だけ振り返った。

 「兄上、王を名乗る者が怯えてどうする」

 そのひと言に、ルーベンの顔が引き攣る。
 次の瞬間、レオナールは歩み出た。近衛兵の前に立ち、腰の剣に視線を落とす。

 「借りるぞ」
 「は、はっ!」

 兵が慌てて鞘ごと剣を差し出す。
 レオナールはそれを抜き放ち、刃を一閃させた。銀の軌跡が燭光を裂き、光の粒が舞う。
 その美しさに、誰もが目を瞠った。
 エミリアの胸が強く波打つ。

 「レオナール様!」

 エミリアが呼ぶ声に振り返った彼は、深くうなずいて前を向いた。
 扉が開かれ、夜風が流れ込む。レオナールの銀の髪は宙に舞い、闇の中へと消えた。
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