月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 そしてついに、王が崩御した。
 エミリアは追放されルーベンが王となり、彼の腕の中にいたのは自分、ただひとりだった。

 『これでいいのよ……』

 その夜、初めて玉座の間でルーベンと並んで立ったとき、胸の奥で歓喜が弾けた。
 夢は叶った。努力も、策略も、祈りも、この瞬間のためにあったのだ。
 だが、運命はいつも、残酷な形で微笑む。
 祝宴の夜、金と光の海に包まれた宮殿で突如、闇が裂けた。
 魔獣の咆哮、焼け落ちる天井、悲鳴。そしてその混乱の中、闇を払ったのはルーベンでもバネッサでもなかった。
 若き日の姿を取り戻した〝夜の王〟と、祈りの光を抱く聖女エミリア。
 光の中に立っていた彼女が、今もまぶたの裏に焼きついて離れない。血と煙に包まれたあの場で、恐怖ひとつ見せず、祈りのように光を放った。
 そしてその光が王の足を癒やした瞬間、彼女は〝聖女〟として再びこの宮殿に立ったのだ。自分が何年かけても得られなかった称賛を、たった一度の祈りで取り戻して。
 その瞬間、すべてがひっくり返った。自分が積み上げてきたものが、粉々に砕け散る音がした。
 ルーベンの目が彼女を追ったのを、バネッサは見逃さなかった。
< 134 / 224 >

この作品をシェア

pagetop