月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「どうして、あの女が」

 呟いた声は震え、扇を握る指に力がこもる。
 香油が滲み、爪が白くなる。

 ――あの女さえいなければ。

 鏡の中に映る自分の顔が、薄く歪む。完璧に整えた髪も、宝石を散らした襟元も、どこか薄汚れて見えた。

 「ふざけているわ……」

 唇の端がひきつる。

 (私がどれほどの犠牲を払ってこの座に就いたと思っているの。どれほど笑顔を作り、どれほど人を操り、どれほど心を削ってきたと思っているの)

 なのに、彼女は祈るだけですべてを手にする。
 愛も、敬意も、光も。
 ――光。その言葉が、胸の中で反響する。
 エミリアの放った光が宮殿を包んだとき、焼けるような痛みを感じた。
 まるで、その光に裁かれたような気がした。
 だからだろうか、今も胸の奥が熱い。
 怒りなのか、嫉妬なのか、それとも恐怖なのか。

 「陛下……」

 その名を呼んでも、返事はなかった。
 情けない男。この国の王があれでは、誰も救えない。
 彼の心は、もう自分のほうを見ていない。見ているのは、あの女とあの夜の王。
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