月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 ***

 目を開けると、窓の外が淡く白んでいた。
 夢を見ていた。十歳のあの日。森で瘴気に呑まれた自分。母の光、父の声。
 それらが遠い霧のように消えていくのを感じながら、レオナールはゆっくりと身を起こした。
 王都から帰って一週間が経つが、あの夜の光景はいまだ瞼の裏に焼きついている。
 黒い瘴気、咆哮、崩れ落ちる城壁。血の匂いの中で、エミリアの魔法は静かに輝いていた。驚愕と畏怖に満ちた人々の視線の中で、彼女はただ静かに祈っていた。
 あれから王都はどうなっただろうか。神殿の加護がない今、あるのは破滅への道だけのように思えてならない。
 古い夢を見たせいか頭痛を感じ、指先で額を押さえる。
 寝台の脇で、エミリアが椅子に腰掛けていた。

 (なぜここに……?)

 彼女がこの地に来てから、寝所を一緒にした夜はない。
 細い肩に掛けたショールが滑り落ちかけていたため、手を伸ばして掛けなおしたそのとき、エミリアが目を開けた。ハッとしてレオナールを見る。

 「……すみません、勝手に。明け方近くに目が覚めて、部屋の前を通ったらうなされているような声が聞こえたものですから」

 彼女の瞳には、心配と安堵が入り混じっていた。

 「昔の夢を見ていた」
 「そうでしたか。……もう大丈夫ですか?」
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