月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 応接室には、初夏の風が静かに流れ込んでいた。磨かれた窓越しに、庭の薔薇が淡く揺れている。
 その前に立っていた男が、レオナールの姿を見るなり笑みを浮かべた。白銀の装甲を脱いだエリオットは幼い頃の面影を残したまま、眼差しに力を宿している。

 「殿下はご健在だった、と言ってもいいでしょうか」

 呪いをかけられた相手にかける言葉として相応しいか、という迷いがあるのだろう現に今、レオナールは年老いた姿である。だが、その気遣いは不要だ。

 「エリオット……」

 レオナールは呟くように名前を呼んでからゆっくりと歩み寄り、骨ばった細い腕を回してがっちりと抱き合った。少年時代に交わした笑い声や稽古場の喧騒が一瞬で蘇る。

 「お会いできてうれしいです、殿下」
 「殿下はやめてくれ。昔のようにレオナールでいい」

 しばらく互いの温もりをたしかめるようにしてから、ゆっくりと離れる。
 そばに控えていたエミリアは、静かに頭を下げた。

 「ようこそお越しくださいました、ブラン卿」

 彼女の礼に、エリオットは驚いたように目を見開いてから、やわらかく微笑む。

 「殿下の隣に、こうしておられるとは。先日は王都でも再びお姿を拝し、胸が熱くなりました」
 「ありがとうございます。今はこの地で、穏やかに過ごしております」
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