月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 エミリアがそう言うと、エリオットは深く頭を下げた。

 「おふたりがともに過ごされていることは、王国にとっての救いです」

 レオナールは、わずかに目を細めた。
 その言葉の中に礼儀以上の感情が滲んでいるのを感じ取ったからだ。

 「ありがとう、エリオット」

 ふたりの間に言葉では届かぬ年月が流れた。
 交わしたのは短い挨拶だけなのに、胸の奥では懐かしさと痛みがせめぎ合う。
 あの頃、共に剣を振るい、夢を語った日々。それがたった十年で、こんなにも遠くなってしまうとは思いもしなかった。
 エリオットの瞳には敬意と哀しみ、そして再び会えた喜びが同時に宿っているように見えた。
 レオナールもまた、その視線の中に若き日の自分を見ている。失われた時が戻ってきたように思えた。

 「おふたりで積もる話もあるでしょうから、私はこれで失礼します。どうぞごゆっくり」

 そう言ってエミリアが退室するのと入れ違いに、カーリンがお茶を準備して入ってきた。テーブルに紅茶と茶菓子を置き、静かに出ていく。
 ふたりは向かい合って椅子に腰を下ろした。
 香り立つ茶の湯気が、老いたレオナールの指先を温める。
 しばしの沈黙のあと、エリオットが笑みを浮かべた。

 「昔と同じです、殿下――いや、レオナール」
 「同じではないよ、この姿だからね」
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