月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
「陛下も、そのことに心を砕いておられる。ただ……」
「ただ?」
エリオットは一瞬、視線を伏せた。
「王都ではあなたの名が再び囁かれています。〝夜の王子〟が現れたと。瘴気を祓い、王都を救ったのは誰かと」
胸の奥がわずかに疼いた。忘れ去られたはずの名が、今になって甦る。それを名誉と呼んでいいものか否か。
レオナールはなにも言わず、ただ茶を口に運んだ。
「王と王妃はその噂を好ましく思っておられないでしょうが、人々は違う。民の間では、あなたが『真に王の血を継ぐ者』と呼ばれている」
風が、窓のカーテンを揺らした。
エリオットの声は静かだったが、言葉の一つひとつが胸に重く響く。レオナールは目を閉じ、しばし黙していた。
「私はたしかに亡き王アルフォンソの血は継いでいる。だが正式な継承者は兄だ」
王の座は、はなから望んでいない。兄であるルーベンが継ぐものと幼い頃から考えてきた。
こうして呪われた身になる以前、父からも『将来は王になる兄、ルーベンの右腕となり支えてくれ』と望まれていた。そこに疑問も嫉妬もなかった。それが自分の生きる道だと素直に信じていたのだ。
だが祝宴の夜、魔獣を前に恐れおののき腰を抜かすルーベンを見て、王として本当に相応しいだろうかという疑念が、初めて胸をかすめた。
「ただ?」
エリオットは一瞬、視線を伏せた。
「王都ではあなたの名が再び囁かれています。〝夜の王子〟が現れたと。瘴気を祓い、王都を救ったのは誰かと」
胸の奥がわずかに疼いた。忘れ去られたはずの名が、今になって甦る。それを名誉と呼んでいいものか否か。
レオナールはなにも言わず、ただ茶を口に運んだ。
「王と王妃はその噂を好ましく思っておられないでしょうが、人々は違う。民の間では、あなたが『真に王の血を継ぐ者』と呼ばれている」
風が、窓のカーテンを揺らした。
エリオットの声は静かだったが、言葉の一つひとつが胸に重く響く。レオナールは目を閉じ、しばし黙していた。
「私はたしかに亡き王アルフォンソの血は継いでいる。だが正式な継承者は兄だ」
王の座は、はなから望んでいない。兄であるルーベンが継ぐものと幼い頃から考えてきた。
こうして呪われた身になる以前、父からも『将来は王になる兄、ルーベンの右腕となり支えてくれ』と望まれていた。そこに疑問も嫉妬もなかった。それが自分の生きる道だと素直に信じていたのだ。
だが祝宴の夜、魔獣を前に恐れおののき腰を抜かすルーベンを見て、王として本当に相応しいだろうかという疑念が、初めて胸をかすめた。