月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
午前が過ぎる頃、エミリアは治療院で忙しく動いていた。今日も傷ついた聖獣が多く訪れているのだ。
白い鱗を持つ竜の子は翼に裂傷があり、血が乾いて黒ずんでいる。
「最近、似たような怪我が増えていますね」
包帯を整えながら言うカーリンにエミリアは静かにうなずいた。
「ここが聖獣たちに広まって、訪れてくれるのはうれしいけどね……」
指先に魔力を集め、傷口へ光を流し込む。淡い蒼の光が滲み、裂けた肉がゆっくりと閉じていく。
竜の子は苦しげに鳴いたが、やがて落ち着きを取り戻した。
「よくがんばったわね」
囁くように声をかけながら、額に手を当てる。
その瞬間、わずかに空気がざわめいた。
窓から差し込む光が、風もないのに炎のようにゆらゆらと歪んでいる。
エミリアは思わず息を呑んだ。
(……瘴気?)
心の奥が冷たくなる。
手を止め、周囲に意識を広げる。空気の流れが重い。まるで目に見えぬものが、ゆっくりとこの地に降りてきているような感覚だ。
「エミリア様? どうかされました?」