月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その日の午後、空の色が急に変わりはじめた。
 自室にいたエミリアは、窓辺に寄って空を見上げる。陽はまだ高いのに、雲が重く垂れこめ、風は一段と強い。庭の木々がざわめく中、ふと目線を下へ向けると、屋敷の門前に黒い馬車が止まった。
 金糸の刺繍が施された王家の紋章が、陽の光を鈍く反射する。

 (――あれは)

 鼓動が強く脈を打った。
 馬車の扉が開き、威厳を纏った男が降り立つ。

 (なぜ、陛下がここへ……?)

 予想もしない客人にエミリアが声も失くしていると、部屋のドアが忙しなくノックされた。

 「エミリア様、国王陛下がお見えです」

 ドアの向こうでセルジュが緊張した声色で告げる。

 「……今まいります」

 いったいなにをしにここへ来たのか。聖獣たちの治療中、胸にどことなく感じたざわめきは、このせいだったのか。
 しかし、恐れる必要はない。自分はすでに彼から追放された身であるのだから。
 シルバを連れて部屋を出ると、体を震わせたカーリンが立っていた。

 「エ、エミリア様、どうしましょう……」

 手を胸の前で組んだカーリンの声には、恐れと戸惑いが滲んでいる。
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