月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 カーリンがお茶をテーブルに置いて下がる。
 静まり返った応接室に、時計の針の音だけが響く。エミリアは向かいの椅子に腰を下ろすルーベンの表情をじっと見つめていた。
 かつて、威厳と自信に満ちていたはずの王。その面影はある。だが今、そこにあるのは焦燥と打算の影だった。

 「……私は、お前を追放したことを悔いている」

 唐突にそう切り出されたとき、エミリアはわずかに眉をひそめた。

 「陛下がそのようなことを口にされるとは思いませんでした」
 「私は愚かだったのだ。バネッサの甘言を信じ、お前を遠ざけた。だが、お前を失ってから王都の光は薄れていくいっぽうだ。瘴気は日々濃くなり、結界も弱まりつつある。……すべては私の過ちだ」

 エミリアは静かに俯き、そして顔を上げた。

 「そう感じておられるのなら、まずなすべきことがあるのでは?」

 ルーベンが怪訝そうに目を細める。
 その視線を真正面から受け止め、エミリアはきっぱりと言った。

 「今、モルテン王国に瘴気が満ち始めているのは、神殿の加護を断ち切ったからではないのですか? その責任を、陛下はどう取るおつもりですか?」

 空気が凍った。
 ルーベンの指が、肘掛けをぎゅっと掴む。
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