月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「……だからこそだ」

 やがて、押し殺すような声で言った。

 「だからこそ、聖女であるお前を再び妃として迎えたい。お前が王に仕え、再び神の加護を取り戻せば、王国は救われる」
 「救われるのは陛下ご自身でしょう?」

 エミリアの声は低いが澄んでいた。
 彼は自分の罪を悔いているのではない。孤独と不安を埋めるために、再びエミリアを利用しようとしているだけだ。

 「それに、私の力は弱すぎるとおっしゃったのは陛下です。無能だともおっしゃっていました」
 「あの頃の私は愚かだったのだ。聖獣のフェンリルまで手懐けるほどの力があるとは知らなかった」

 ルーベンは拳を握りしめる。

 (この人は、私自身ではなく〝力〟が欲しいだけなのだわ)

 胸の奥に、冷たいものが広がっていく。愛も悔いもない、ただ権力のために言葉を操る男を前に、かつて感じた敬意の欠片さえも霧のように消えていった。

 「陛下の言葉は、民ではなく、王座を守りたいだけにしか聞こえません」

 ルーベンの頬がひくりと震える。

 「……お前はわかっていない。私は王だ。王の命に逆らえる者など、この国にはいない」
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