月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「愚か者! あの呪われた男とともに生きるというのか! あれは……人の形をした化け物だ!」

 その拍子に、エミリアのケープに隠れていたシルバが飛び出る。大きな音を聞き、エミリアの危機と思ったのだろう。
 元の大きさに戻ったシルバがエミリアを庇うように立つ。低い唸り声をあげ、ルーベンを睨んだ。

 「……っく」

 ルーベンの喉の奥から声ともつかない音が漏れる。右腕をかざして身構えた。

 「シルバ、大丈夫よ」

 その背を撫で、落ち着かせる。

 「今、陛下が化け物と呼んだ方は、あなたよりもずっと人として正しい生き方をされています」

 エミリアの声は毅然としていた。むしろ、すべてを見通すように穏やかですらある。
 ルーベンはしばし息を詰まらせ、やがて苦々しく笑った。

 「やはりお前は変わらぬな。いつも私の言葉よりべつの人間を信じる」
 「そうさせたのは、ほかでもなく陛下ご自身だということは忘れないでください」

 淡々としたエミリアの言葉にルーベンが眉根を寄せる。
 いつか妃として見てくれるだろうという期待をことごとく裏切ったのはルーベンだ。
 エミリアは立ち上がり、深く一礼した。

 「陛下に追放されたおかげで、私はレオナール様に出会いました。この地で幸せに過ごしております。どうかもう私には構わないでください」

 ルーベンは返す言葉を失い、ただエミリアを茫然と見つめていた。
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