月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 咆哮が途切れ、黒い霧が噴き出す。霧は空へ昇り、やがて音もなく消えた。
 静寂が舞い降り、夜風だけが残る。
 エリオットが荒く息を吐き、剣を地に突き立てた。
 その隣で、レオナールがゆっくりと歩み寄る。
 彼の手から滴る青い光が、大地の裂け目をなぞるように広がっていった。

 「結界を修復しなければ」

 足元の紋章が微かに光を帯びていく。それに合わせてエリオットも剣を構え、光を増幅させた。
 ふたりの魔力が重なり合い、渦を巻く。
 風が逆流する。瘴気が苦鳴を上げるように逃げ出し、空気が一瞬、白く弾けた。
 その中でレオナールの目が鋭く光る。

 「光よ、秩序を取り戻せ」

 最後の言葉とともに手を振り下ろす。地面を走る光が結界石を伝い、砕けかけていた結界の線がふたたび繋がった。
 暗い空に細く、たしかな青の光輪が浮かび上がる。やがて風が静まり、重苦しい瘴気が薄れていった。
 崩壊しかけた結界は、ひとまず命脈を取り戻したようだった。
 だが、レオナールは剣を支えながら小さく首を振る。

 「……これで保つのは三日。いや、二日が限界か」

 額に汗が滲む。魔力の消耗は激しい。

 「やはり完全な修復は難しいか」
 「ああ。外側の裂け目はふさいだが、内部に入り込んだ瘴気までは祓いきれなかった。根が深い」
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