月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 夜明け前の空は、まだ深い群青に沈んでいた。
 ミカエル領の城が見えはじめた頃、風の匂いが変わった。
 レオナールは馬の手綱を引き、動きを緩める。

 「……この気配、なにかある」

 隣を走るエリオットも眉をひそめた。

 「瘴気、か?」
 「いや……もっと冷たいものだ」

 城門をくぐった瞬間、レオナールの胸に重い違和感が広がった。
 松明の炎が消されている。音もなく佇む城全体が、なにかに怯えて息を潜めているようだった。
 ふたりは急ぎ、中へ向かう。階段を駆け上がり、エミリアの部屋の前で足を止めて扉を叩いた。

 「エミリア、起きているか?」

 返事はない。
 もう一度、強く叩く。それでも静寂だけが返ってきた。
 胸がざわめく。

 「失礼、開けるぞ」

 レオナールは躊躇わず扉を押し開けた。
 中は整っている。ベッドも机も乱れた様子はない。
 だが――。

 「……いない」

 エリオットが息を詰める。
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