月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「まさか……城を出たのか?」
 「夜明け前にか? そんなはずはない」

 エミリアがここを出る理由などなにひとつない。
 そのとき、背後の廊下から足音が聞こえた。セルジュとカーリンが慌てた様子で駆け込んでくる。

 「殿下、どうかなさいましたか⁉」
 「なにやらシルバが吠えて……!」

 ふたりのそばでシルバが尻尾をぴんと立てている。
 レオナールは短く答えた。

 「エミリアがいない」

 カーリンの顔が青ざめる。

 「そんな……私が寝るときにはお部屋の灯りがともっていたのに……!」
 「探してくれ。城じゅうくまなく」

 命を受け、シルバとともに城内を駆け回った。
 廊下、庭園、書庫、温室――。しかしどこにも、彼女の姿はなかった。
 不安げに鳴くシルバの声が、静まり返った城に響く。やがてシルバは中庭のほうへ突然駆け出した。
 レオナールたちが息を切らせてあとを追うと、シルバは噴水のそばで足を止めた。
 夜露に濡れた石畳の上に、小さな物が落ちている。月の光を受けて微かに光った。
 レオナールはそれを拾い上げ、手の中でじっと見つめた。
 ――金糸の房飾り。
 それは王家の近衛騎士が身につける、礼装用の装飾だった。
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