月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「王の紋章……!」

 セルジュが息を呑み、エリオットは唇を結んだ。

 「王都からの使者……いや、賊が……?」

 レオナールは無言のまま、指先で房をなぞる。

 「王都から来た者がここにいたのは間違いない」

 低く、鋭い声が響く。

 「エミリアは王都へ連れ去られたのだ」

 ルーベンの仕業か。祝宴の席でエミリアの聖なる力を目のあたりにし、その力を欲したのかもしれない。
 風が吹き抜け、房飾りが揺れる。
 その揺れの中で、レオナールは静かに眼を光らせた。

 「エリオット、馬を整えてくれ。すぐに発つ」
 「だが、レオナール――」
 「時間を失えば、それだけエミリアから遠ざかってしまう」

 とにかく一刻も早く救出に向かいたい一心だ。
 セルジュとカーリンが膝をつき、頭を垂れる。

 「殿下、どうか、我らも――」
 「お前たちはここを守ってくれ」

 レオナールは金の房飾りを懐に収め、ゆっくりと踏み出す。
 その背には、かつてないほどの憤慨が滲んでいた。
 東の空がわずかに白みはじめる。
 老いた姿に変わりつつある中、レオナールは呟いた。

 「……待っていろ、エミリア」

 その声は風に消え、夜明け前の静寂に溶けていった。
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