月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 ルーベンとは二つ離れた弟と聞くから、本来の年齢は二十一歳だ。

 「お初にお目にかかります。私は、陛下の命により――」
 「聞いている。王都を追われた元妃だな」

 膝を折って挨拶をしたが、彼が遮る。
 胸の鼓動が早まった。自分でも理由はわからないが、彼の声が思いのほか穏やかだったからかもしれない。

 「……はい。正式に離縁状をいただきました」
 「そうか」 

 彼の反応に、小さくうなずく。〝追われた〟という響きが鋭く胸に刺さった。
 火の爆ぜる音だけが部屋を満たす。
 長い沈黙のあと、老王子は静かに問いかけた。

 「怯えてはいないのか。呪われた王子のもとに嫁ぐことを」

 怯えていない、と言い切るには少し勇気がいった。
 しかし彼の目には邪悪なものはなにひとつない。むしろ清らかな光が見えた気がした。

 「恐ろしくは、ありません」
 「なぜだ?」
 「殿下の目が……嘘を言わない方のものだからです」

 その瞬間、彼の瞳がかすかに揺れた。
 暖炉の光がその表情を照らす。老いの陰の奥に、ほんのわずかに人間らしい痛みの色が滲んでいた。
< 18 / 224 >

この作品をシェア

pagetop