月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 バネッサが挑発的に言う。
 レオナールの唇が、静かに動いた。

 「……痛めつける、か」

 その声は低く、刃よりも冷たい。

 「権力の座にいる者が、弱き者を縛るときによく使う言葉だ」

 レオナールは階段を下りながら、ゆっくりと剣を抜く。銀の刃が淡く光り、瘴気を裂くように冷たい風が流れた。

 「王妃と呼ばれるあなたが、聖女を拷問にかける。この国も堕ちたものだ」

 言葉は静かだったが、その静けさこそが怒りの証だった。
 バネッサが表情を歪め、肩を震わせる。

 「呪われた王子の分際で黙りなさい!」

 バネッサが怒りに任せて叫んだそのとき、石の階段の上からべつの声が響いた。

 「バネッサ! お前、なんということを!」

 その声に、バネッサの肩がびくりと震える。そこには青ざめた顔のルーベンが立っていた。血の気が引いた頬がランプの光を受けて青白く光っている。
 その後ろからはエリオットが短剣を抜いたまま、警戒を崩さずに続いた。
 ルーベンは荒い息を吐き、信じられないものを見るようにバネッサを見つめた。
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