月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 彼がエミリアを庇うように腕を広げたその瞬間、黒い光が天井を突き抜け、封印の符が破裂した。
 轟音とともに、地下全体が震える。
 エミリアの瞳が光に覆われる中、かすかにレオナールの声が響いた。

 「……兄上、覚悟はあるのか」

 ルーベンが彼のほうを見る。

 「なにを――」
 「自らの罪を清める覚悟だ」

 その瞬間、魔法陣の中心が崩れ、黒と白の光がぶつかり合った。風が咆哮し、地下礼拝堂はまるで生き物のように震えはじめる。轟音が、地の底から這い上がるように響いた。
 光と闇がぶつかり合い、礼拝堂の石壁が軋む。燭台が砕け、床に描かれた魔法陣が崩れながらも、なお脈打つように輝いていた。
 バネッサの身体が宙に浮かぶ。黒い髪が炎のように揺れ、狂気に染まった瞳はかっと見開かれていた。

 「これが……力! 神に背を向けた力よ! 私は世界を変える女王になるのよ!」

 叫びながら、彼女の腕が震える。だが、その皮膚はすでに黒い霧のようなものに覆われ、まるで闇そのものが体内から滲み出ているかのようだった。

 「やめろ、バネッサ! それ以上は――!」

 ルーベンが叫んで駆け寄る。だが瘴気が壁のように押し返し、彼を遠ざけた。
 それでも彼は足を止めない。血の涙を流すような顔で、王冠を頭から外し、地に叩きつけた。
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