月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 かつては、朝になれば枯れ木のように老いさらばえ、震えるほど弱々しかったその手。それが今は、陽の光を受けてもしなやかに伸びている。
 背後で、がらりと瓦礫が崩れる音がした。
 振り返ると、埃を払いながらエリオットがゆっくりと立ち上がる。
 その目はレオナールへ向けられ、信じられないものを見たように大きく見開かれていた。

 「……レオナール? それ、本当に……?」

 言葉にならない声で呟いたあと、エリオットは一気に笑みを零した。喜びと安堵が入り混じった、不器用な笑いだった。

 「嘘だろ……! 本当に、治ったんだ! くそっ……よかった……!」

 目尻をぬぐいながら、彼は胸を押さえて深く息をついた。

 「生きて帰ってくると信じてたけど、本気で…もうだめかと思ったんだぞ……」

 その声は震えていたが、たしかに笑っていた。
 その光景を見てエミリアも息を呑む。涙が溢れそうになった。

 (……呪いが……解けた、の?)

 喉の奥で、言葉にならない声が震えた。
 彼の肩越しに、崩れた壁の向こうが見える。朝焼けの空が、薄桃色に染まっていた。
 その光が王都の屋根を、塔を、そして瓦礫に沈んだこの地下聖堂までも照らしている。
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