月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 誓約書を受け取り、手早くサインしたものを彼の指示に従い執事に手渡した。
 レオナールがそれをたしかめる間、短い沈黙が訪れる。そして軽くうなずき、彼が椅子の肘掛けに手をついて立ち上がろうとしたそのとき――。

 「っ……」

 低く息が漏れる。膝が震え、体がぐらりと傾いた。
 反射的にエミリアが手を伸ばす。

 「殿下!」

 軽い音を立てて、杖が床に転がった。
 咄嗟に支えた彼の体は驚くほど軽い。それでも、細い肩を支える腕越しに熱が伝わってくる。
 「お怪我は……?」
 「いや……この老いた骨が、言うことを聞かぬだけだ」

 レオナールは苦笑した。

 「無理をなさらないでください。椅子にお戻りになりますか?」
 「ああ、頼む」

 彼の腕を取り、そっと背を支えて椅子へ導く。
 レオナールは静かに腰を下ろし、息を整えながらエミリアの手元を見つめた。
 エミリアの手から、ほんのかすかな温もりと光が零れる。

 (少しでも痛みが和らぐといいのだけど……)
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