月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 そう口にしたのは礼儀のつもりだったが、実際にはなにかしていないと落ち着かない心を誤魔化すためだった。
 レオナールの訪問は予想外で、しかもこの時間。理由を尋ねる前に、彼の瞳の揺らぎや扉の向こうで待っていた気配が胸に残って離れない。
 大切な話があるのではという予感が、静かに膨らんでいた。

 「いや、必要ない。ここへ座ってくれ」

 レオナールが隣のスペースを手で指し示したため、エミリアはおずおずとそこへ腰を下ろした。

 「エミリア」

 名を呼ぶ声音が覚悟を帯びている。

 (――もしかして、この婚姻は無効だと言うつもりなのかも)

 エミリアにとってもっともよくない予感が胸をかすめた。
 モルテン王国が今後どうなっていくのかわからないが、ルーベンは王の座には留まっていられないだろう。となればレオナールが、過去の王命に従う必要はなくなったと考えても無理はない。
 エミリアは膝の上で両手をぎゅっと握った。

 「今日まで私は、王命の元にキミを〝妻〟と呼んできた。この婚姻は兄であるルーベンが定めたものだ。だが、もうその縛りはない」

 エミリアの予感は当たったも同然の言葉だった。

 (やっぱりそうなのね……)
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