月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 鋭い刃で胸を貫かれたような感覚だ。彼の顔を見られず、エミリアは握りしめた自分の手を見つめた。

 「だが、もう違う。呪いも王命も、なにもかも取り払われて……今はただの私だ。ひとりの男として、キミの前にいる」

 不意にレオナールの手が、エミリアの手に重ねられた。
 はっとして顔を上げる。

 「エミリア、キミがこの城へ来てから、私の世界は初めて色づきはじめたんだ。これからもキミと生きたい。愛するキミと未来を築いていきたいんだ」

 想像していたものとは真逆の言葉に息が止まる。目を見開き、レオナールを見つめた。

 (……今、愛してるって……そう言ったの?)

 耳を疑わずにはいられない。

 「私に、キミの〝夫〟になることを許してくれないか?」

 一点の揺らぎもなく静かに告げられた。
 胸の鼓動が一気に早まる。
 レオナールの手がエミリアの頬に触れた。しわがれた老人の手ではなく、若々しく温かい、彼本来の手だ。
 エミリアを見つめる眼差しの熱さが、その言葉が本当であることを物語っていた。

 「レオナール様……」

 声が震える。知らず目尻が熱くなった。
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