月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 結界の力が弱まっているせいか、空の色もどこか鈍く、遠くの森からは不穏な気配が漂ってくる。
 それでも、この祭壇にはまだ希望が残っていた。
 王家の血と聖女の力が揃うことで、再びこの地に光が満ちる。そう信じたくなるような静かな祈りの気配が、石の床の下に眠っているようだった。
 大聖堂内部に足を踏み入れた瞬間、空気がひやりと肌を撫でた。

 「ここまで弱っているとはな」

 レオナールの低い声が石壁に反響する。
 結界石の中心には、黒ずんだひびが走り、細かな欠片が足元に散らばっている。
 長い間、王家の加護と聖女の祈りが絶たれてきた、その代償だ。

 「エミリア、まずは結界石の浄化からはじめよう。キミの力が必要だ」
 「はい」

 エミリアは結界石の前に膝をつき、手のひらをそっと石へ近づける。ひび割れた石からは冷たい気配が滲み出ており、触れてもいないのに指先が震えるような寒気に包まれた。

 (大丈夫……レオナール様がいる)

 隣に立つレオナールの気配に、自然と呼吸が落ち着いていく。

 「私が先に瘴気を押さえる。そのあと、キミの光で満たしてくれ」

 そう言ってレオナールが目を閉じると、彼の周囲の空気が震え、淡い金色の光が形を成しはじめた。
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