月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 (みんなの声が、まるで祝福の風のようで……)

 不意に視線を交わしたときの、あの小さな微笑みを思い出すだけで胸が熱い。
 王として歩むと強く宣言した瞳は恐れなど少しもなく、その視線の先にエミリアを捉えてくれていた。
 民も騎士も貴族も、誰もが新しい王を讃えたが、その中で自分だけに向けられた一瞬の眼差し。なによりそれが誇らしく、嬉しかった。

 (王妃としてではなく、ひとりの妻として――)

 あの一瞬一瞬のすべてが愛おしくて、胸がいっぱいになる。
 そっと小さく息を吐き、エミリアはレオナールの胸元へ頬を寄せた。

 「レオナール様が王になった日なのに」
 「ん?」
 「一番幸せなのは、きっと私です」

 小さな声で告げたその言葉に、レオナールの腕が少し強く回される。

 「それでいい。今日という日を一番近くで喜んでくれるのはキミであってほしい」

 その声はとても優しかった。
 窓の外では夜風がそよぎ、結界の光が揺れている。
 国が新しい時代を迎えたその夜、エミリアの胸にもまた、新しい未来へのたしかな温もりが生まれていた。

 「……ありがとうございます。本当に幸せ」
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