月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「それと……」

 セルジュが部屋の奥に目をやる。
 そこには、明るい栗色の髪をした若い娘が立っていた。
 歳は十六、七ほどだろうか。エミリアとそう変わらない。少し緊張した面持ちだが、その瞳は澄んでいた。

 「彼女はカーリン。私の孫娘でございます。これより、エミリア様付きの侍女としてお仕えいたします」

 少女は慌てて裾をつまみ、深く膝を折った。

 「か、カーリン・フェントンと申します。どうぞよろしくお願いいたします、元妃殿下……」

 その言葉に、エミリアは優しく微笑んだ。

 「ありがとう、カーリン。私に殿下は不要です。どうか気軽に接してちょうだい」

 そう言うとカーリンは少し驚いたように顔を上げ、そしてほっとしたように笑った。
 その笑顔に、エミリアの心もふっと緩む。閉ざされた城に、わずかな春の気配が差し込んだ気がした。

 「お荷物はあとでお運びいたします。カーリン、エミリア様のお世話を頼みますぞ」
 「はい、お祖父様」

 セルジュが一礼して部屋を出ていくと、部屋には暖炉の音と雪の静けさだけが残った。
 カーリンは緊張した様子でカーテンを開ける。
 窓の外には雪に包まれた森と、遠くにぼんやりと霞む山脈の影が見えた。
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