月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 レオナールは少し驚いたように目を瞬いたが、すぐに視線を逸らした。

 「大したことではない。ただ、外で少しばかり転んだだけだ」
 「外で……?」

 その言葉に、エミリアの胸がかすかに強張る。
 昨日の朝にはなかった傷だ。セルジュからも夜に出歩くとは聞いたが、老いた体で雪の中を歩くのは困難を極めるだろう。
 となると、やはり異形に姿を変えるのだろうか。

 「見せるような傷ではない」

 レオナールはそう言いながら、左手で包帯を隠すように膝の上に置いた。
 だが、その仕草には痛みを押し隠すような硬さがある。

 「少しだけ、手を見せていただけませんか?」

 エミリアはやわらかく声をかけた。

 「癒しの術を……ほんの少しだけ。痛みが和らぐかもしれません」

 レオナールは短く息をつき、目を閉じた。

 「……好きにするといい。ただ、傷には触れないほうがいい。キミの手が汚れる」
 「構いません」

 エミリアが彼の手にそっと触れると、包帯の下から微かな熱が伝わってきた。
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