月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その熱には、単なる傷の痛み以上のものが潜んでいる気がした。

 (これはなんの気配なのかしら……)

 手のひらの下で、淡い金色の光が滲む。エミリアの祈りが光に変わり、包帯を透かして肌を包んでいた。
 レオナールはわずかに顔を歪め、それから静かに息を吐いた。

 「……不思議なものだな」
 「痛みは、少し引きましたか?」
 「ああ……まるで、氷の上に陽が差したようだ」

 彼はそう言って、初めて少しだけ笑みを見せた。
 エミリアは安堵の息をつきながら、包帯の上から指を離す。

 「本当は、手当をしてくださる方がいればいいのですけれど……」

 ここが王都ならまだしも、北の果てにそれができる人間がいるとは思えない。

 「この屋敷に治癒師は来ない。呪われた身の世話をしたがる者など、王都にはいないだろう」

 言葉の端に、ひどく静かな孤独が滲む。彼の苦しみを垣間見たようで胸が痛い。
 その声を聞きながら、エミリアはゆっくりと膝の上で手を組んだ。
 暖炉の火が、古い窓硝子に揺らめいて映る。その光の中で老いた王子の横顔は、雪解けの水に映る月のように儚かった。
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