月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 呟くと、フェンリルはゆっくりと立ち上がった。
 雪を踏む音が静かに響く。そして、その大きな頭をエミリアの肩にそっと寄せた。

 「……っ」

 温かい。それは冬の中に差し込む春のような温もりだった。
 やわらかな毛がエミリアの頬をくすぐったため、思わず手を伸ばしてフェンリルの頭を撫でた。

 「おりこうね」

 フェンリルはくぅんと鼻を鳴らした。

 「信じられません……フェンリルが、人に触れるなんて……」

 カーリンが呆然としながら呟く。

 「きっと寂しかったのね」

 エミリアは小さく笑って、もう一度フェンリルを撫でた。

 「私と同じだわ。王都にいた頃からずっと……」

 フェンリルは静かに尾を振り、雪の上に丸くなった。その瞳は人の心を映すように穏やかだ。

 「古くからこう言われております。『フェンリルが雪を踏むとき、王家の血は神の手を離れる』と。王家が堕ちる前に、必ずこの獣が姿を現すのだと」

 震える声で言うカーリンの言葉に、エミリアは小さく息を呑んだ。
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