月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「心配はいらぬ。……ところで、ここでの暮らしでなにか不自由はないか?」
 「セルジュさんとカーリンにもよくしていただいておりますので、特にありません」

 エミリアがそう答えてすぐ、カーリンが「それなら手袋をエミリア様へ!」と声をあげた。
 レオナールはゆっくりとカーリンを見て目を瞬かせる。

 「これ、カーリン、藪から棒になんですか」

 セルジュに制され、「申し訳ありません!」とカーリンは頭を下げたが、レオナールが問う。

 「手袋?」
 「はい。お庭をお散歩されるときに手が冷えるだろうなって」

 雪が降っていないとき、エミリアはよく庭を散歩していた。手がかじかむのは感じていたが、それをカーリンが気づいていたとは。
 レオナールがエミリアを見る。〝そうなのか?〟と目で尋ねていた。

 「たしかに冷えますが、我慢できないほどではありませんので」

 わざわざ用意してもらうほどのことではない。エミリアは首を横に振った。

 「では街に買いに出るのはどうだろう」
 「街に?」

 思いがけない言葉に心が小さく弾む。ここへ来て一カ月、城の敷地から出たことはない。
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