月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「殿下、段差にお気をつけください」

 手を差し出すと、レオナールは躊躇うようにしてからその手を取った。
 年老いた指先はかすかに震えたが、エミリアが支えると彼は微笑んだ。
 街の人々がふたりに気づき、道を開ける。
 中には膝を折って頭を垂れる者もいたが、レオナールは首を振ってそれを制した。

 「顔を上げよ。今日は、ただの買い物だ」

 その言葉に、皆が少し戸惑いながらも微笑んだ。
 エミリアもその空気に胸が温かくなる。
 露店の女主人が手招きして、小さな籠を差し出した。

 「お美しい手ね。でも、そのままじゃ冷えてしまうわ」
 「ええ、ちょうど手袋を探しているの」
 「まぁ、それならこれを見てくださいな」

 女主人が差し出したのは、羊毛で編まれた手袋だった。雪のように白く、指先には小さな銀糸の刺繍が光る。
 試しに手を入れると、驚くほど滑らかで、ぴたりと手に馴染む。

 「似合っている」

 レオナールの声が静かに響いた。
 彼は杖で体を支えながら、エミリアの手元を見つめている。冬の日差しを受けたその眼差しはどことなくうれしそうだ。
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